吉田アミの日日ノ日キ

吉田アミが書きました。

「星であって悪いという法があるのだろうか?」

「いや、なに、只そういうことを世間では云うからね」
「それじゃ星が気の毒だよ。だって星は別に悪いことなんかしない。たかだか香具師(やし)だのちんぴらだのギター弾きだのに化けて、夕暮の街をうろつくというまでの話だ。それも確証があるわけでない。すべては憶測を出ない。それとも星から被害を受けた者がどこかにいるのであろうか」
「そうじゃないね! 考えてみたまえ、たった一言の耳打ちが拡がって、あの始末さ。諸君は当座は腕や腰が痛かったはずだ。頭にホータイを巻いた人も、ボクは現にこの眼で見て知っている。この事実は、もともと星がそういう不吉なものだということを証明するものでないか」
「そりゃこじつけだよ」
と先の、星の弁護人が言い返しました。
「おや、キミはボクに含むところがあると見えるね」
と誹謗者が早くも彼の片手を握りしめました。

自分一人だけあとに残ったのです。
でも、彼はホッとするなり「結局はオレが星ではなかったのだろうか」などと疑いませんでした。従って昇天の必要もなく、彼は今まで通りに折鞄をかかえてオフィス通いをしています。但し仲間は、一件以来、彼には寄りつかないようです。それは彼を以て星に相違ないと思っているからでしょう。事実、先方は星なのかも知れません。第一、そうでなかったところで、彼らの疑いを差止めるわけにはいきません。それと共に、星々はこの世界の始まりからいるのでしょうから、その中の一箇がいったん人間に化けてそのままでいようと、いなかろうと、これも彼の意志による限りは差支えがないとしなければなりません。そうではありませんか?


一千一秒物語/稲垣足穂

これよむと2ちゃんねるを思い出す。