吉田アミの日日ノ日キ

吉田アミが書きました。

師走だ

師走の前にクリスマスだとかいう、うわついた西洋の祭りごとがあるがやんわりと見て見ぬ振りをしていたいのに、街路樹はきらびやかにピカピカ豆電球をゆわせたり、錯乱したサンタの人形が激しく腰を振って唄っているよ。この時期、町はクリスマスに一生懸命だ。


クリスマスなんかにいい思い出があったためしがない。
幼稚園に入った、はじめてのクリスマス間近のある日。冬休み前ということで体育館に集められた私たち園児は園長先生の残酷な一言を訊く。
「サンタはいません!」
いません・・・いません・・・いません・・・
こだまする残酷なテーゼ。いないって!あんたぁ!ツッコむ園児はおらず、一同に衝撃が走ったのは言うまでもない。
「なぜならあれはキリスト教の作り話だからです!」
と、園長先生のとどめの一言。園児達に逃げ場はない。場内騒然。阿鼻叫喚の地獄絵図。
そうなのだ。この幼稚園は仏教系の幼稚園であったために、そういった西洋の風習をえらく毛嫌いしていたのだ。まさに仏契り。ステラおばさんのクッキーみたいなメガネをかけたドアノブみたいな帽子をかぶって、暖炉にロッキングチェアーで編み物でもしていそうないつも温厚な園長先生が般若のように見えた瞬間だった。大方の園児はひどくバカなのですぐに忘れていったが天才園児であった私は未だに覚えている。あのとき、あの瞬間の戦慄を。一生忘れないだろう。ああもはっきりと「サンタはいない!」と言い切った大人の姿を。そういう大人げない大人はこれからドンドン、絶滅していくのだろう。子供にトラウマを与えず夢だけを与えていくのが大人の役目。今年も子供の居るご家庭内のサンタ騒動は終始しないのだろう。
キリスト教を信仰しない宗教以外のすべての子供にサンタクロースはやってくる。キリスト教を信仰しない宗教の子供は悪い子供だと言い含めながら。
私は意地の悪い子供であったがサンタは来ずともプレゼントはちゃんともらえた。「サンタは良い子のところにしか来ないんだよ。」町内会のクリスマス会やテレビやアニメや絵本や大人の言葉や子供の言葉で何度も何度も繰り返し聞かされた。それはひどく胸の悪いルールのような気がして、ばつが悪い。いまだにその言葉を聞くと私の胸がきしむのである。