吉田アミの日日ノ日キ

吉田アミが書きました。

今年も『このマンガを読め!2008年』で選評しました

このマンガを読め! 2008

 というわけで、今年も『このマンガを読め!』(フリースタイル刊)の季節がやってきました。宝島社の『このマンガがスゴイ!』とお間違えのないようご注意ください!年間マンガガイドとしてはフリースタイルが先にはじめていたのですよと豆知識。特筆すべきはベストテン作品の初回分の再録8ページがまるまる載っているというトコロ。オモシロイマンガを知りたい!でも、何がいいのかわからない!とお悩みの初心者にも優しい親切設計。業界初の試みということで、その英断を応援したいです。また、大きさもイイカンジだし、装丁も活かしてる。バックに入れて、パラパラ読むには最適なブックガイドになっていると思います。
 
 とはいえ、私が上げたマンガ家は全力でスルーされております。いや、でも2008年の!というのであれば、私はそれらの作品を推したことは全然、恥ずべきことじゃないと思ってます。なぜ、誰もとり上げらていないのか、逆に不思議に思っています。 
 ベストテンに選ばれたマンガは苦手意識があってなんとなくまだ読んでいない作家以外、ほぼ読んでいます。去年の『このマンガを読め!』で取り上げられた作家で、私が知らなかった作家は全部チェックしました。しかし、今回は知らない作家がほとんどいない。これは私が1年間に大量にマンガを読んだせいかもしれません。でも、ほんとうはそうじゃない。ここで紹介されていない作品、作家で、まだ見ぬオモシロイ作品はもっとあるハズなんです。 
 ベストテンに選ばれた作品からは、ある種のマンガ玄人像がはっきりとわかります。その玄人像からは今のマンガへの絶望を感じます。昔の作家の昔の作風の過去の模倣のノスタルジー。新しい作風に対する無寛容さ。「萌え」に対する拒否反応。などなど。私が絶望的になるのは、この感じの評価です。  

 そもそも、マンガに絶望している人にオモシロイマンガなんて紹介できるのでしょうか?

 そんな風に感じてしまうのです。
 
 私がそんなことを思おうが思うまいがしょうがない話ですが、『鈴木先生』を読んでいる人の何人が『こどものじかん』を読んでいるのだろう? と、不安になります。作品のクオリティが低いと選者が感じているのなら仕方のない話ですが、もし、まだ、知らないのなら、こんな作品もあるのだよ、と私は言いたいと思うのです。
 
 はっきり言って、今でもマンガはオモシロイです。
 
 いえ、どんどんマンガはオモシロくなっているんです。
 もし、マンガの面白さに気がつけないというのなら、自身がマンガに飽きてしまった証拠なんじゃないでしょうか。対象に飽きてしまったのなら、情熱がなくなってしまったのなら、無理に読むのは苦痛なだけじゃないのでしょうか。ほっといても探す、読む、見つける、なければあるまで探し求める。誰に頼まれなくてもそうしてしまう性、それがマンガ読みってもんじゃないのでしょうか。私はそうであればいいのにと、希望する。マンガを愛しているから。
 
 私は2006年のこのマンガを読め!の編集後記にあった言葉を思い出します。
 

なぜ『このマンガを読め!』というガイドブックを作ろうかと思ったのかというと、じつはすごく単純な話で、近所の行きつけの本屋がなくなったためなのです。僕はその書店で二十年近くマンガを買っていて、どこになにがあるか、新しいものはどれかとか、だいたいすべて分かっていました。店員のひととも仲良くて、いろんなマンガを勧めてもらって買っていたのですが、この店がある日突然閉店しました。お店がなくなってしばらくすると、それまで知っているマンガしか買わなくなっている自分がいました。『自分の知らない、面白いマンガが読みたい!』

 それまで知っているマンガしか買わなくなっている自分がいました。『自分の知らない、面白いマンガが読みたい!』
 
 そう、この言葉。今でも私は同じ気持ちです。知らない何かを知りたい。そして、出合いたい。だって、まだまだ知らないマンガはいっぱいあるのだから。絶望している暇はないんです。まだまだ読み続けなければならないんです。
 
 というわけで、私は「今年、出会うべきマンガ」ということを念頭に置いて選びました。来年じゃ遅すぎるマンガを、選びました。傑作は完結してから褒めてあげたい。
 あと、短編をのぞく連載マンガは2巻以上出ていなければ、評価は保留にしています。もし、今、知ったとしても購入に結びつくことが、難しいからです。また、壮大なストーリーものの場合、2巻まででは判断できないことが多いからです。でも、少し後悔しているのは五十嵐大介の『海獣の子供たち』を入れなかったことです。店頭で手に取ってみてください。冒頭の8ページの素晴らしさに、震えると思います。私はこの作品に特別に思い入れがありますが、2巻までしか出ていないということで、まだ、これからどんなにも面白くなるとわかっているから、期待しているから外しました。
 
 あらゐけいいち『日常』は1巻を読んで「これは!」と思い、このサイトでも薦めましたが、2巻を読んで面白さが「確信」に変わったマンガです。『STUDIO VOICE』の最新号*特集 2008年のクリエーターたち で、インタビューされていました。じわじわと注目を集めています。『よつばと!』がオモシロイ、と思うなら手にとって見てください。単なるフォロアーじゃない、新しい感覚がそこにあります。
 そしてそして、うちではアホのように薦めていた水上悟志惑星のさみだれ』。これも、相当人に薦めて買わせまくったマンガですが、薦めた人が一様に「オモシロイ!今!旬!」という評価で、私はしてやったりでした。これは、アニメやラノベ文脈を持ち合わせていないマンガ文脈のみで読むと、新しさがまったくわからないらしい。でも、鬼頭莫宏『ぼくらの』は評価されるわけですよ。それって、単に掲載誌の問題だけじゃないのか?と勘ぐりたくもなります。絵柄の問題ももちろんあるとは思うけど、この時代に生まれてマンガ好きなら読まないのはもったいない!
 カトウハルアキの『ヒャッコ!』も良かったんですがまだ、巻数が進んでないため保留。小路啓之『作品集1 小さな世界』は短編ということで入れました。これも、強烈に「現在」を感じるマンガです。80年代っぽいノスタルジーさもあるにはあるんですが、どこか欠落した感覚があって、そこが新しく感じました。
 
 まだまだ知らないマンガはあります。ランキングを見て「知ってるマンガばっかり!マンガは低迷期に入った!読むべきマンガは有名な作家の長編だけ!」と思っている人は、浅はかに決めつけないでください。マンガの世界は深淵です。『ハチワンダイバー』で読んだでしょう? まだまだ、深いなんてなんてマンガ読み冥利につきるのでしょう。それを喜ぼう。誇ろう。期待しよう。そう思うのです。