吉田アミの日日ノ日キ

吉田アミが書きました。

鉄塔をオソルオソル降りてありつこうとしたチーズフォンデュのレストランへは怖気づく。お腹なんかまだすいていないよ!と言い訳しながらちょうどやってきた帰りの列車に揺られる。
揺られてぼんやりと外の景色を見ているとどうにもこれにぴったりの音楽をかけたくなってきたのでipodを取り出した。この空気感にぴったりな音楽はと思いあぐねていると、二階堂さんの声が無性に恋しくなってきた。しかも、最近出たばかりのSPDILLの「日向月-feat.二階堂和美」がどうあがいてもぴったりすぎるという発見をする。うすぼんやりとしたくぐもった空をガラス越しで見つめる列車の中で安全なまま生命の危険など微塵もなく子供の嬌声を遠くに聞きながら移り行く景色とともにすれ違っていく歌の切なさと身を切るような外の寒さと似非失恋旅行気分でも、もりたてるにはぴったりすぎるBGMであるとこのまま誰かの気持ちに共感して真似して頻繁に携帯でも開け閉めしてみようと、歌のシチュエーションに酔って遊ぶのであった。とてもいい歌詞だし曲だし二階堂さんの声がとてもきれいだし優しいし泣けてくるし抱きしめたくなるきらきらとして、とてもいい。静かに息遣いする心使い もう知らない というところが好きです。決定的な答えをわざとズラして逃げて、はにかんで照れてくさくって天邪鬼で弱虫すぎてギュっとしてくなるかわいらしい素直な名曲です。ちなみに歌詞はhttp://illreme.com/lyric/lyric1/spdill/03.txtでご覧になれますー。インターネット万歳!
カタンカタンとすれ違う牛や牧草や色鮮やかな子供を見過ごしていると駅。駅で降りてまた、町をぶらぶらといわしてデパートの上で昼食をとってワイン飲んで老人に甘やかされてワイン飲んでふらついて眠くなって何か衝かれたように疲れているふりを一瞬だけして石畳を歩き出す。石畳をコツコツと靴音響かせながら町を闊歩しているとやっぱり二階堂さんの歌が合うのでソロのアルバムなどをリピートしまくって人類愛に目覚めまくる。少し、ボリュームを絞って待ち行く人々の声が聞えるくらいにして、テクテクと歩き回る。
坂を上っていく途中の私営の人形博物館へ。ウィーンでもしこたまドールハウスに首っ丈であったが、ここでも果敢に一人きりでも物怖じしないで入館!し、館内を練り歩きながら不気味な人形に相槌を打って、目配せ。
そこを出て、そこいらへんの気になる店に片っ端から入りながら、坂をどんどん上っていって、リンデンホフの丘に出る。地球の歩き方で見知った感じじゃあ、けっこうな観光スポットと思しき場所でしたが、実際に行って見るとたんなるどんぐり広場といった面持ち。まるで私はこの地に土着してしまった。生まれてから何年も住んでいたんじゃないかと図々しくも錯覚する。しょぼい中で小さな展望。拓けた丘から町を見下ろす。呼吸する町。パノラマは広がる。丘で勇敢に戦った少女の亡霊を幻視。ひるがえってはためく白いハンカチーフ。吼える犬。白旗。くくりつけた木の杭は腐っていて、いまにもほどけて飛んでいきそう。亡霊をくくりつけた忌みを解放してあげたくなって、吼える犬と同じ気持で呪文を唱えると少女の魂を鳩が運んでどこかに連れていて、曇った空は神の光臨みたいにパッと晴れ間がのぞいて、奇跡みたいにきれいだなと思って見上げていた。夕暮れにはまだ少し早いけど、私の気持は黄昏てしまったので、丘を降りて水路の横の道を進んで駅まで歩いた。
さくさくパリパリと枯葉を踏む。