吉田アミの日日ノ日キ

吉田アミが書きました。

スイス、チューリッヒ 三日目(後半)

陽もとっぷり暮れ、暗くなった町で右往左往と彷徨う心はもとなく。いつも海外で迷って言葉もわからずどうしようもなくなって帰れなくなってどうしようもなくなる不安はつきまうのが常。まさかまさかのリアル現実ほんとうにまさかの予想で不安的中!?思いながら、どきどきする動悸鳴り止まない。どうにかなっちゃうかも知れない不安とないまぜになった期待みたいなものが芽生えて戸惑う。迷子になる不安と迷子になる楽しさは相反しないで同居しているのだと気がつく。それでも夜は濃くて。夜は恐ろしく何の解決にもなっていないのに闇雲にコツコツと靴音響かせ石畳を自信を持った方向音痴が行くわけですから度胸だけは人一倍。あきらかにどう考えても知りもしない道だと78パーセントくらいの本能が警鐘を鳴らしますが、もう少しだけもう少しだけと一区間、二区間先へと足早に。
で、目の前にぱっと、そのとき、巨大な三日月が現れて、絶対にこの道ではありえないありえるわけがない、月が見えるわけがないと方向感覚が鈍く戻って、そこで、立ち止まって、振り返ったら、そこに見知った巨大な煙突が不意に現れ、あっちだよ!あっち側だよ、ホテルは!と気づくことができた。危ない、危ない。福田和子か、私は。
巨大なもくもく煙噴出す煙突のすぐ裏がホテルなので、何も考えずに来た道を戻って煙突のほうへ進み出したら、見知った洋服屋や見知ったシシカバブー屋が見えてきてその先にはホテルもあったのでほっと胸をなでおろした。地図を持たないインプロ散歩はこのようなスリリングさと途方もない疲労感を私に与えたのであった。腰痛で具合が悪くなりながら、買ってきて冷えたローストチキンと栗とビールを飲んで一息。そうしてるうちにうつらうつらと眠くなって朝になるのです。ビールを半分以上、残したまま。