吉田アミの日日ノ日キ

吉田アミが書きました。

ダ・ヴィンチ5月号の「殿堂入りプラチナマンガランキング150」にアンケート答えました

ダ・ヴィンチ 2009年 05月号 [雑誌]

4月6日に発売されたダ・ヴィンチ5月号の特集「殿堂入りプラチナマンガランキング150」のアンケートに答えています。コメントは一部収録されていますが、せっかくなのでこちらに全文公開します。

当たり前だけどダ・ヴィンチで紹介されているマンガはほとんど読んだことがあった……。新しい発見はなかったけど、ヒット作の共通認識として参考になりました。そして相変わらず「NANA」がスルーされているのはウケる。売れてるのになー「NANA」。マンガ好きには評価されにくいな。なのに大島弓子が1作品も入っていないって、ありえない。ゼロ年代における大島弓子のスルーされっぷりってなんなんでしょうか。悲しくなるな。

1998年に同じくメディアファクトリーから発売された「1億人の漫画連鎖コミックリンク」では、吉田秋生の「BANANA FISH」が1位だったけど、さてこちらでは……。気になる人は手にとって見てくださいね。

■1960年〜1969年
1)
作品名 カムイ伝
著者名 白土三平
理由  マンガ「銀魂」、「バカボンド」、「シグルイ」、「無限の住人」、ノベルスなら西尾維新刀語」など、昨今のパラレル時代劇ブームに嵌った読者にもおすすめしたい。

2)
作品名 テレビくん
著者名 水木しげる
理由 「墓場の鬼太郎」、「河童の三平」も捨てがたいが、水木が広く世に認められた作品「テレビくん」を挙げたい。マンガの中から漂ってくるポアーとし妖気のトリコになる。ほがらかなニヒリズム、ユーモアが足りない読者にもおすすめしたい。

3)
作品名 猿飛佐助
著者名 杉浦茂
理由 独特の言語感覚、冴えるギャグ、シュールな笑い、造形センス。ふざけた感じが絶妙だ。怒ったり、絶望しているのがバカらしくなる。何かと暗い世の中を明るくする杉浦作品。うつむき加減な読者にもおすすめしたい。

4)
作品名 ドラえもん
著者名 藤子不二雄
理由 真の子ども向けマンガという教育的な側面から、しずちゃんの幼女の裸体など、アンモラルなロリコンまで幅広いファンを魅了。マンガでは読んでないよ!という読者にこそ、おすすめしたい。

5)
作品名 紅い花
著者名 つげ義春
理由 同時期に発表された「ねじ式」「李さん一家」「ゲンセン館主人」も捨てがたいが、少女の初潮を紅い花にたとえた同作を「絶望先生」で、和ゴスに目覚めた人や大人への成長に戸惑う少女に興味深々な方にもおすすめしたい。

■1970年〜1979年

1)
作品名 ポーの一族
著者名 萩尾望都
理由 「訪問者」「11人いる!」「トーマの心臓」も捨てがたいが、影響力という点で押すなら「ポーの一族」か。永遠の命を得た少年たちのヴァンパイア譚として、血のエロスに魅了されがちな中2病な読者にもおすすめしたい。

2)
作品名 バナナブレッドのプディング
著者名 大島弓子
理由 24年組と呼ばれた少女マンガ家が大活躍だったこの時期。他の少女マンガ家に与えた影響は絶大。これぞ、ザ・少女マンガ。少女がありのままの少女たりえる、それが価値となることを示した。少女という理解不能なイキモノに翻弄されたい人や不思議ちゃん&ヤンデレ好きにもおすすめしたい。

3)
作品名 天才!バカボン
著者名 赤塚不二夫
理由 行き着くところまで行ききった狂気を帯びた前衛魂。破壊しつくされるルールに「これでいいのだ」の肯定の呪文ですべてが虚無化する。時にはその信じた「常識」っていうやつを疑うってこと、頭が不自由な読者にもおすすめしたい。

4)
作品名 デビルマン
著者名 永井豪
理由 大ヒットした「エヴァンゲリオン」などに大きな影響を与えたせいで、類似する作品は数知れず。話の筋は知っていてもちゃんと目を通している若い人は少ないのでは? 原典を読むことをおすすめしたい。

5)
作品名 地獄の子守唄
著者名 日野日出志
理由 わたなべまさこ「聖ロザリンド」も捨てがたいが、トラウマホラーとしてはこちらが上か。「おまえはあと3日以内に死ぬ!」これほど読者を恐怖に貶めたホラーマンガはかつてあっただろうか。私が3日間うち震えたのはいうまでもない。「まだらの卵」「地獄変」も怖いヨ!

■1980年〜1989年

1)
作品名 日出処の天子
著者名 山岸凉子
理由 「テレプシコーラ」で山岸作品に触れた読者は全員読んでて当たり前!といいたいところだが、そんなわけないので改めておすすめした。少女マンガ特有のわかりにくいコマ割りがなく読みやすいので少女マンガに苦手意識のある人にもおすすめ。決定的な相容れない別離を描いた名作。どうしようもないことってある。

2)
作品名 AKIRA
著者名 大友克洋
理由 「童夢」も捨てがたいが、影響力で選ぶならがぜんAKIRA!アニメの影響でマンガのことが忘れ去られがちですが、細部まで何度も読みまくれば読みまくるほど味があり好きすぎて気が狂いそうです。大友克洋のデザイン、かっこよすぎる……ほれぼれ、うっとり。

3)
作品名 クッキングパパ
著者名 うえやまとち
理由 なんでも肯定してきたクッパパ。たった一つの究極を求めず、これもいいあれもいいというほっかほかハートこそ、多種多様が叫ばれる現在に必要な生きるヒントなのかもしれない。最近刊行されたうえやまの初期作品もアヴァンギャルドが過ぎて最高です。

4)
作品名 わたしは真悟
著者名 楳図かずお
理由 「ジョジョ」や「ひぐらしがなく頃に」を通過した今こそ、読み返えしたい。一体、この「私」とは何者なのか。他者と自己との葛藤、少年少女の成長を描いた昭和最大のラブストーリー。

5)
作品名 死と彼女とぼく
著者名 川口まどか
理由 「キャー」と叫ぶ美少女を描いたのが楳図なら、どんなホラーな状況にも無表情な美少女を描いたのが川口。死者とは生者の延長線だから、怖がるだけでなく、慈しみの念を抱くということを自覚的に描いたホラーはこれまでなかったのでは。他人と共有できない悩みを持つ者どおしの結びつきの強さや、コミュニケーションの問題も描いており、単にホラーだからと敬遠するのはもったいない。

■1990年〜1999年
1)
作品名 ちびまる子ちゃん
著者名 さくらももこ
理由 西原理恵子は努力型の秀才だが、さくらももこは天才だと思う。元祖エッセイマンガ家といっても過言ではない彼女の笑いのセンス、マンガで読み返してみると絶妙であると驚く。吉田戦車などを彼女なりに解釈し「神のちから」を経た「コジコジ」もすばらしい。

2)
作品名 棒がいっぽん
著者名 高野文子
理由 はじめて雑誌で読んだときの衝撃が忘れられない。すでに過剰に評価されつくしているので、理由を述べるのは避けたい。文句なし。

3)
作品名 船を建てる
著者名 鈴木志保
理由 少女マンガにカルト・ムービーをもちこんだこと、どうしようもない世界の終わりを描いたこと。いっきに雑誌の色を塗り替えた「断片と言葉」。1999年に向かう頃の世に漂ったあのムード、世紀末という病を見事に表していた。終わると決まった世界だからこそ輝ける。

4)
作品名 アリスにお願い
著者名 岩館真里子
理由 宙ぶらりんに終わりいつまでも物語が続いているように描く岩館真理子の珍しく完結した作品。圧倒的な美少女の悪意と百合的な雰囲気も併せ持つ。美しすぎる少女にはバッドエンドがよく似合う。凡人と麗人の境界線。出会うことなき、平行線をたどるのだ。

5)
作品名 うそつきサマー
著者名 冬野さほ
理由 「さくらの唄」でも「ザ・ワールドイズ・マイン」でも「YOUNG&FINE」でもなく、独断と偏見でこの一冊を挙げたい。登校拒否児童の気持ちをここまで代弁してくれた作品はなかった。自著「サマースプリング」の一人称がアタシなのはこの本からの影響だ!

■2000年〜2009年

1)
作品名 惑星のさみだれ
著者名 水上悟史
理由 正しき少年少女たちに送るビルドゥングスロマン。であるが、その実、大人に大人気。こんなかっこいい大人になりたい、自分はそうなれているのか?内省するにはもってこいな名セリフも多数。アニメを通過した人だからこそ良さがわかる、お約束なんて打ち破っちゃえよ!知ってて、ズラすテクニックが現在っぽい。

2)
作品名 こぐまレンサ
著者名 ロクニシコージ
理由 復刊に携わったほど、好きなマンガ。読者がいることではじめて作品の価値が照らし出される。あなたがいること。その大切さ。「ラッシュライフ」、「ひぐらしがなく頃」や「空の境界」で、物語が時系列に進まないタイプの物語に慣れたらすんなり読める、先取りしすぎコミックス

3)
作品名 お父さんは急がない
著者名 倉多江美
理由 何にもおきないことを何にもおきないまま描いた。読書スピードとマンガの時間軸がぴたり合ってしまいそう。そして、仄かに残るじんわりとした感動。これが、心地好い。

4)高速回線は光うさぎの夢を見るか?
華倫変
インターネットで自殺してしまった少女を描いた表題作ももちろんよいが、華倫変華倫変としてすべての作品を読んでほしい。何の救いもないまま残酷に消費される少女たち。このワードにピン!ときたら手にとってほしい。

5)カストラチュラ
鳩山郁子
少年のままの姿で在り続けることの違和が、グロテスクに描かれている。永遠などはないという否定。成長を悲観しない価値観は、作者がそれまで描いていた作品を覆す変化だった。マイナーなので、一部にしか評価されていないが、はっきりいって傑作です。もっと読まれるべき。