吉田アミの日日ノ日キ

吉田アミが書きました。

神様お願い

からだぢゅうが筋肉痛だ。ヒジョーに困難。ぎすぎす痛い。
短期でうっかり入ったバイトのせいだ。
 それはスーパーの試食販売をするバイトなのだが、大変に思えぬのにそのじつものすごい大変だった。私にとっては、だが。
そう、私はすっかりコンピュータのせいで体の筋肉が衰えていた。そんなことはどうだっていい。どうだっていいのだが、あまりに今日のバイトの一コマで非道く具合の悪くなる事が起きたから書かずには要られない。気持ちを整理する為にも。
 私は人格を変えてロボット化し、すべての仕事に取り組んでいた。そうしていればなんにも考えることもなく流れ作業ですべてが終わるから。それはとっても楽なやり方だ。
 そんなロボット化人間にとって接客など他人がしている絵空事で現実感などないのである。しかし、そこへ私の心をかき乱した客がやってきた。みるからにチンピラ、ヤンキーの名残ママな風貌の男にビールを渡した。ノベルティも渡し、一個、売れたなあと頭の隅で知覚していた。
 しばらくして先刻の男が見るからにヤンママとしか形容できない女と「ジュース!ジュース!」とヒステリックに泣き叫ぶ女の子と黙ったままの男の子、ふたりを引き連れて私の前へ現れた。男は何故かノベルティを持っていた自分のカバンに入れて私にこう訊いた。「これ別にここ入れといてもいいんだよね」私は答える「ええ、お買いあげ戴くんでしたら問題ないですけど。」「じゃあ、返さない」と男が言ったか言わないの時に女は遮るように私に吠える。「いただくわよ。いいでしょ。」私は困った。「お買いあげいただいた方にお渡ししているものなので」女はまた私の言葉を遮る。「ある。ある。こんなかあるんだからね!」となんだか怖い顔で言う。まあ、いいや、一個くらいちょろまかされても仕方ない。まさか持ち物検査するわけにはいかないのだから。下手に構うとめんどくさそうだし・・・。
 で、私は引いてしまった。そこにまた今時ばっちりはいったソリコミと趣味の悪い金のネックレスのいでたちのその男が近寄ってきて、「これのませていい?」と訊くではないか。フツーそういわれれば女が飲むのだろうと合点するものだと思う。私ももちろんそうだろうと思い、どうぞと薦めた。そうゆう仕事なんだこれは。
 だが、男はそのアルコール度数5.5をなんと自分の子供に与えるではないか。慌てて止めるが、まったく無視だ。ふたりは「のんでるのんでるふふふ」と愉快そうに言いあって「ジュースのかわりこれで充分じゃん」などと無責任なことを言って遠くに消えていった。
 カートに乗った女の子はビールを顔をしかめながら飲んでいた。女の子は小さくなりながら私の方をずっと見ていた。苦虫を噛み潰したような表情でじっと見据えられたまま。
 私はうろたえた。何故、という憤りと父親のあの目配せが気になった。あの男、私に承諾を得たのだ。子供にビールを飲ませていいということわりを。それはすべての責任を私に擦り付けたものだった。親なのに。親が責任放棄である。最悪だ。
 私はその片棒をかついでしまったこととあの女の子が目に焼き付いていきなり暗い気持ちになった。なんでこんな嫌な気持ちになってしまったんだろう?
そんな想いの中、昼食に出掛けた。
 午後。何人もの家族が通り過ぎていった。驚いたことにその中でたった二組の家族が子供に当たり前のようにビールを飲ませたのだ。子供もビールに馴れているらしくその祖母や両親にビールをねだっていた。それはあまりにも自然でジュースかなんかのように平気で飲ませている。もしかして田舎では子供にビールを飲ませるなんて当たり前なのか???それとも最近の大人の道徳観は変で子供にアルコールを飲ませてもいいという考えの人が多いのか?それにしてもこんな公衆の面前で臆面もなく子供にアルコールなんてどうかしてると私は思うのだが・・・。
けれどもその二組の家族にはさほど、嫌な気持ちにはならなかった。子供の年が小学生くらいだったせいもあるかも知れないがなんにせよ子供がそれをビールとして認識し、親もビールを飲ませている自覚があってやっていたからだ。それに片方の家族は誰かが飲ませている人に「もう、子供に飲ませないで!」と制していた。おばあちゃんと子供の組み合わせできていた方はそうゆうのはなかったけど。
私は何故、先のヤンキー夫妻の行為が私の気持ちを暗くさせたのか考えた。
 そうだ、あの二人は子供の為にわざわざジュースを与えるよりも、そのへんでただで配っている飲み物ならなんでもいいからくれてやれと思っていたような態度のせいだ。その子供に対するぞんざいさは、子供の服装や表情からも見て取れた。なんだか怪我だらけで、どちらの子供も気持ち悪いくらいに表情に乏しかったのだ。無邪気さとは無縁な何処か暗い影のある顔。なんなんだろう、あれは。女の子は私をじっと見据えたままだった。まっすぐな視線でこっちを小さくなって見えなくなるまで見ていた。ビールを苦そうに飲みながら、私に何を訴えていたのだろう。
私はなんだか子供一人を見殺しにしたような気分だった。
 私はあの時、あの両親と喧嘩するべきだったのだろうか?そんなことをしたら確実にペナルティで給料はおろか罰金を払わされただろう。だから、なにもできなかったのか。自分の不毛さ、いたらなさに気持ちは暗くなった。
 パチンコで置き去りにされ熱射病で死ぬ子供、覚醒剤を乳飲み子に面白いからと言って投与して子供を死なせた親、虐待で死ぬ思いをする子供・・・そんな子供の事を考えた。
 子供は無力だ。守るべき大人がそんなんでいいわけはない。激しい憤りと悲しみ。 私の何も出来なかった事への罪悪を打ち消すためにもすべての子供が幸せになるように。もしもいるなら、神様、慈悲を。そんな気持ちの今日だった。